JSME第99期流体工学部門講演会で本研究室の研究成果を発表しました.

2021年11月9日(火)にオンラインで開催されている日本機械学会(JSME)第99期流体工学部門講演会で本研究室の研究成果を発表しました.

  • 題目:OpenFOAMを用いた極超音速飛行体周りの熱化学的非平衡流の数値解析(Parkの2温度モデルに基づく数値解析コードhy2Foamの検証)
  • 著者:坂村芳孝(発表者)・中山勝之・大嶋元啓

本研究で使用したソルバーhy2Foamの開発者であり,GitHubリポジトリ上で情報を公開しているVincent Casseau博士に深く感謝します.なお,本研究はJSPS科学研究費JP21K03880の助成を受けたものです.

本研究室の研究成果が公開されました.

本研究室の研究成果が学術雑誌Shock Wavesに掲載されました.こちらからご覧いただけます.

Sakamura, Y., Nakayama, K. & Oshima, M. Numerical simulation of shock-induced motion of a cuboidal solid body using the overset grid functionality of OpenFOAM. Shock Waves (2021). https://doi.org/10.1007/s00193-021-01035-5

本研究は,ESI版のOpenFOAMに実装されている重合格子機能を用いて,伝播衝撃波との衝突によって運動する物体の運動が予測できるかどうかを確かめたものです.衝撃波管で行った実験結果との比較によって,OpenFOAMの検証を行いました.

アピールポイントは

  • OpenFOAM(v1706)の重合格子機能を使って,衝撃波を伴う高速気流中における物体の6自由度運動を予測できたこと

です.ごく短時間(5 ms程度)での比較ではありますが,流体運動と物体運動の連成現象を数値シミュレーションで再現できたことは,大きな前進だと思っています.さらに長い時間にわたって現象を再現できることが実証されれば,数値シミュレーションによる爆発飛散物の軌道予測・危険度評価を実用的なものにすることができるはずです.

なお,本研究はJSPS科研費JP21K03880の助成を受けたものです.

映画「サマー・オブ・ソウル(あるいは,革命がテレビ放映されなかった時)」を観てきました.

映画「サマー・オブ・ソウル(あるいは,革命がテレビ放映されなかった時)」を観てきました.

これは,1969年にニューヨークで開催されたハーレム・カルチュラル・フェスティバルの記録映像に,出演者(あるいはその家族)や観客のインタビューを加えて制作されたドキュメンタリーフィルムです.ニュース映像も使われていて,人種差別や貧困など,当時のアメリカ社会が抱えていた課題を知ることもできる映画です.アームストロングとオルドリンが月面着陸に成功したのは1969年7月20日ですが,この音楽フェスとちょうど重なっているのは,とても象徴的だと思います.

今やレジェントとなっているミュージシャン達の若々しい姿とパフォーマンスに魅了されました.特に,Sly & The Family Stoneの“Everyday people”とNina Simoneの“To be young, gifted and black”は圧巻です.

ARM版Juliaに期待

Juliaのアップデートを行うため,久しぶりに公式ダウンロードサイトを訪れたところ,次期リリースv1.70ではmacOS・ARM版が提供されることがわかりました.v1.7.0-rc1をダウンロード・インストールし,以下のコードを使ってJupyter lab上でベンチマークを行ったところ,結果は55秒程度となりました.Rossetta2で動作していると思われるv1.6.1では76秒ほどでしたので,1.4倍程度速くなっています.Apple M1ユーザにとって朗報です.

using Pkg; Pkg.add("BenchmarkTools")
using BenchmarkTools

function fib(n)
    if n<2
        return n
    else
        return fib(n-1)+fib(n-2)
    end
end

@benchmark fib(50)

テスト環境

  • Machine: Apple MacBook Air (Late 2020)
  • CPU: Apple M1 (8 cores)
  • OS: macOS Big Sur (Ver. 11.6)

映画「ミナリ」のこと

久しぶりに劇場で映画を観た.手元の割引チケットの使用期限が迫り,慌てて観に行ったのだが,運良く素晴らしい映画に出会うことができた.タイトルは「ミナリ」.韓国語でセリを意味する言葉である.劇中では韓国語が飛び交うが,正真正銘のアメリカ映画である.脚本・監督は韓国系アメリカ人のリー・アイザック・チョンで,半自伝的作品とのこと.

本作で描かれる韓国人家族の物語は波乱万丈で,ジェットコースターのように喜びと悲しみが繰り返される.そんな喜怒哀楽の中に垣間見える家族愛は本作の最大の魅力である.

映画の中で,へびを見つけて追い払おうとする孫に祖母が語る言葉が印象的だった.正確なセリフを覚えていないが,こんな内容だったと思う(著者のおぼろげな記憶に基づくもの).

ヘビを追うのはやめなさい(隠れてしまうから).ヘビは見えないよりも見えている方が良いんだよ.

そう,本当に気をつけなければならないのは目に見えない危険だ.示唆に富むセリフである.

先週読んだ小説の話

4月は本当に慌ただしい.時間があっという間に通り過ぎていく.記憶も次々と失われていくので,先週読んだ小説のことを記録しておきたい.

変わった鳴き声をもつクジラが太平洋に住んでいるらしい.その鳴き声の周波数は52 Hzで,類似の回遊パターンをもつシロナガスクジラ(10~39 Hz)やナガスクジラ(20 Hz)の声と比べてとても高い.不思議なことに,その鳴き声をもつクジラはたった一頭しか観測されておらず,そのため「世界で最も孤独なクジラ」と呼ばれているそうだ(参考:Wikipedia 52ヘルツの鯨

実際の音声(周波数を10倍に加工したもの)はこちら

先週読んだ小説『52ヘルツのクジラたち』(町田そのこ 著・中央公論社)では,登場人物をこのクジラになぞらえてストーリーが展開されていく.一見普通に見える人たちも私達には聞こえない周波数で助けを求めているのかもしれない.

良い小説は読み手に新しい視点を与えてくれる.本作はまさにそんな作品である.

Photo by Silvana Palacios on Pexels.com

JSME北陸信越支部第58期総会・講演会で研究成果を発表しました.

2021年3月6日(土)にオンラインで開催された標記講演会で,われわれの研究室の成果を発表しました.

  • 演題:OpenFOAMに実装された重合格子法による造波抵抗の予測精度
  • 著者:後藤啓太(登壇者),中山勝之,大嶋元啓,坂村芳孝

12月に発表した内容をさらに発展させて,運動する物体にはたらく造波抗力の予測精度を検証しました.

なぜ気体の粘性係数は密度に依存しないのか?(気体分子運動論による説明)

はじめに

先日開催された「プレゼンテーション演習」の合同発表会で,本研究室のプレ配属生が次のような質問を受けていました.

火星の大気密度が小さいのであれば,密度に応じて粘性係数も変化するのでは?

私自身,温度が決まれば気体の粘性係数が決まることは,知識として知っていましたが,密度に対する依存性については意識の外にありました(ウッカリしていました).

理科年表(1)を紐解いても

気体の粘度(粘性係数 著者注)は数十Paより数気圧に至る広い範囲において圧力にはほとんど無関係である.

とは書かれていますが,その理由までは示されていません.

そこで,慌ててVincenti & Krugerのテキスト“Introduction to Physical Gas Dynamics”(2)を確認して整理してみましたので,備忘録として掲載しておきます.

輸送現象

気体の巨視的な特性量(速度,温度,濃度)が空間的に一様でないとき,一様な状態に戻す現象(粘性,熱伝導,拡散)が生じることは経験的によく知られているところです.長時間経つと,最終的に一様な状態に達し,これらの現象は消滅します.

これらの物理現象は,気体を構成する分子のランダムな運動(熱運動)によって運動量やエネルギー,質量が輸送されることで生じるものであり,輸送現象と呼ばれています.巨視的な特性量の空間的な偏りが,分子運動によって輸送される微視的な物理量の流れ(流束)にアンバランスをもたらし,巨視的な特性量の輸送を生み出すわけです.

本稿では気体の粘性についてのみ考えていきますが,この場合考察の対象となるのは気体の速度の非一様性です.例えば,速度のx方向成分uy方向にだけ非一様に分布している場合,y=一定となる平面上には速度成分uを一様にする方向に単位面積あたり\tauの大きさをもつせん断力(せん断応力)が働きます.これはニュートンの粘性法則として知られていて,次式のように表すことができます.

\displaystyle \tau = \mu \frac{d u}{dy} \hfill (1)

ここで現れた\muが粘性係数(粘度)と呼ばれる物性値です.次節では,気体分子運動論に基づき,粘性係数が密度や圧力に依らず温度だけで決まることを説明したいと思います.

気体分子運動論による輸送現象の説明

気体分子がもつ物理量(運動量,エネルギー,質量)の巨視的平均量\tilde{a}を考えましょう.ここでは\tilde{a}y方向にだけ変化するものとします.つまり

\tilde{a} = \tilde{a}(y)

図1に示されるように,平面y = y_0の下側に存在する分子がこの平面を横切るとき,この分子は,最後に他の分子と衝突した場所y = y_0 - \delta yでもつ平均量\tilde{a}(y_0 - \delta y)をもって移動すると考えます.ここで\delta yは平均自由行程\lambdaと同程度の大きさをもつものと仮定し,\delta y = \alpha \lambdaと表します.ここで,\alphaは1程度の大きさをもつ比例定数です.平面y = y_0の上側に存在する分子は,上と同様に考えて,平均量\tilde{a}(y_0 + \delta y)をもって移動することになります.

また,平面を単位時間・単位面積あたりに横切る平均的な分子数は,n \overline{C}に比例するものと考えられます.ここで,nは分子数密度,\overline{C}はランダムな分子運動の平均速さであり,y = y_0で評価されたものです.

以上のことから,y軸の正の方向に向かって輸送される,単位時間・単位面積あたりの平均量の流束\Lambda_{\tilde{a}}

\Lambda_{\tilde{a}} = \eta n \overline{C} \left[ \tilde{a}(y_0-\alpha \lambda) - \tilde{a}(y_0+\alpha \lambda) \right]

として計算することができます.ここで\etaは比例定数です.

さらに,\tilde{a}y = y_0のまわりでTayler展開して,1次項までを残すと次式が得られます.

\displaystyle \Lambda_{\tilde{a}} = - \beta n \overline{C} \lambda \frac{d \tilde{a} }{dy} \hfill (2)

ただし,\beta = 2 \alpha \etaとしました.

図1

運動量の輸送と粘性

分子の質量をmとすると,式(2)において\tilde{a}=muとおけば気体分子がもつx方向の運動量流束が求まります.

\displaystyle \Lambda_{mu} = - \beta m n \overline{C} \lambda \frac{d u }{dy} = - \beta \rho  \overline{C} \lambda \frac{d u }{dy} \hfill (3)

ここで\rho = m nは気体の密度です.

次に,Newtonの運動法則

ある時間内に生じた物体の運動量の変化はその間に物体に作用した力積に等しい.

を適用すれば,図2に示すような平面に作用するせん断応力\tauは,この面を単位時間に通過するx方向の運動量流束と等しくなることがわかります.ただし,せん断応力の向きについては,図2に示した平面の場合,x軸の方向を正と定義していますので,この面を通過して流入する正味の運動量が正となる場合に対応しています.一方,前節で定義した運動量流束はy軸の正の向きが正となるように,つまり流出する方向が正となるように定義されていますので,次式のように符号を変更する必要があります.

\tau = - \Lambda_{mu} \hfill (4)

図2

以上で求めてきた式(1), (3), (4)を比較することで,粘性係数が次のように与えられます.

\mu = \beta \rho \overline{C} \lambda

ここで,平均自由行程は密度に反比例(3)し,熱運動の平均速さが絶対温度の平方根に比例する(4)ことを思い出せば,粘性係数は密度には依存せず,温度のみの関数となることが理解できます.

おわりに

3年生の授業(「プレゼンテーション演習」合同発表会)での質問をきっかけにして,気体の粘性係数が密度に依存しないことを気体分子運動論的に改めて考えてみました.以上の内容が記載されていたVincentiとKrugerのテキストは研究室の輪読で何度か読んでいたのですが,最近取り上げることはなかったので,完全に記憶から抹消されていました.やはり定期的に読み返す必要がありますね.

なお,同書によれば,Maxwellが1860年にこの関係を発見したとき,あまりに驚いて,彼自身が実験で確認するまでの間,眠れなかったとのことです.

参考文献

  1. 国立天文台 編,理科年表2019,丸善出版(2019), p. 395.
  2. W. G. Vincenti and C. H. Kruger, Jr., Introduction to Physical Gas Dynamics, Krieger Pub. Co. (1986), pp. 15-18.
  3. ibid., p. 14.
  4. ibid., p. 9.