内田樹著『生きづらさについて考える』を読みました.

先日,内田樹先生の『生きづらさについて考える』(毎日新聞出版)を読みましたので,備忘録として,投稿します.

本書の特徴として何よりも真っ先に指摘したいことは文字が大きくて読みやすいということ.これは,視力が衰えてきた私達の年代にとっては極めて重要で,有り難いと感じたところです.

内容に関しては,いつも通り深く考えさせられる言葉がいくつもあって,これから何度も手にする本になりそうです.特に,「情理を尽くして説く ー 書き手に求められているもの」には,学生の皆さんに是非読んでおいてもらいたい内容がありましたので,ご紹介します.

私たちが論理の筋目を通し,論拠を示し,出典を明らかにし,情理を尽くして説くのは,読者が身内ではないからだ.自然科学の論文は精密なエビデンス(科学的根拠)と厳正な理論に基づき,主観的願望を介入させないように書かれているが,それは同じ分野の専門家たちの厳しい査定的なまなざしを想定しているからである.文系の物書きにはそれほどの学術的精密さは求められないけれども,「情理を尽くして説く」という構えは分野にかかわらずものを書く人間が手放してはならない基本ルールである.

内田先生の書物でいつも楽しみにしているものに「まえがき」と「あとがき」があります.本書に収められている多くの文章は何らかの媒体で発表されたものを加筆・修正したものなのですが,「まえがき」と「あとがき」は,当然ながら,書き下ろしとなりますので,新鮮ですし,語りかける文体にも惹かれるところがあります.本書においても,その「あとがき」の中で「豊かで安全なのだけど,なぜか子どもが生まれない国」(日本を含んでいます)の共通点が指摘されていて,目から鱗が2,3枚は落ちました.いや,本当に.

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テッド・チャンの新作『息吹』を読み終えて

テッド・チャンの新作SF短編集『息吹』(大森望訳・早川書房)を読み終えました.

前作『あなたの人生の物語』の緻密に作り込まれた作品群に圧倒された私にとって翹望の一冊でした.実に17年ぶりの刊行とのことですが,期待を遥かに上回る内容に,改めて打ちのめされた感じです.

彼の作品の多くは,読み始めてしばらくの間は内容が掴めず,「一体,何の話なんだろう?」と首を傾げながら読まなければなりません(私の場合).しかし,少しずつ読み進めていくと徐々にその内容が明らかになってきて,気がついたときにはすでに作品の中に完全に呑み込まれ,読むことを止められない状態に陥ってしまうのです(個人差はあります).

彼はSF作家と呼ばれ,科学や技術をモチーフにした作品を世に送り出していますが,彼の作品に描き出されているものは紛れもない人間の姿であり,私はそこに魅力を感じています.今回の作品群の中で,個人的におすすめなのは以下の4篇.

  • 「商人と錬金術師の門」
  • 「息吹」
  • 「偽りのない事実,偽りのない気持ち」
  • 「オムファロス」

ウィルスは生きている!

中屋敷均著「ウィルスは生きている」(講談社現代新書)を読みました.中屋敷先生の本を読むのは,「科学と非科学」(講談社現代新書)に続いて,2度目となります.「科学と非科学」同様,抜群の面白さで,一気に読んでしまいました.

圧巻は第3章で紹介されたカリヤコマユバチという寄生バチの話.その驚きの生態はもちろん,ウィルスとの奇妙な共生関係を知るにつれて,自然界の不思議さを再認識した次第です.


原田マハ著「楽園のカンヴァス」を読みました.

 素朴派の巨匠アンリ・ルソーの名作『夢』(下図参照)と,それに酷似した架空の作品『夢をみた』をめぐって繰り広げられる美術品鑑定ミステリーです.本サイトで原田氏の作品を紹介するのは2度目(以前紹介したものは「翼をください」)になりますが,前作同様,史実とフィクションとが入り混じった,魅力的なエンターテイメント作品となっています.
 本書を読むまですっかり忘れていましたが,学生時代にパリのオルセー美術館でルソーの『戦争』を観たたことがあります.大きなカンヴァスを時間を忘れて眺めていたことを思い出しました.いつの日か,本作で取り上げられた『夢』も鑑賞してみたいと思っています.

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アンリ・ルソー 『夢』(1910年)

土屋嘉男著「クロサワさーん!」を読みました.

 学内教職員の有志で連載している書評ブログに投稿したものを再掲します.この本は,数年前にラジオ番組「武田鉄矢の今朝の三枚おろし」の中で紹介されていたときに購入したものですが,熊本出張の際に読み直してみました.また『七人の侍』を観たくなってきました…

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藤本とし著「地面の底が抜けたんです」

以前にご紹介した学内書評ブログに投稿したものを再掲します.

学生時代,大学の正門前の古本屋によく立ち寄っていた.たまに掘り出しものもあって,見つけたときの喜びは何物にも代えがたいものがあった(戦前に出版されたE. ゼンガー著「ロケット航空工学」を入手したのもこの古本屋であった).

本書は,その古本屋で見つけて購入したもので,何度も読み返している愛読書である.さすがに20年以上経つと背表紙も破れ,ぼろぼろになってきたので,昨年2冊目をネットで購入した(送料込みで500円程,良い時代になったものだ…).

本書は2部構成で,前半にエッセイが,後半に口述筆記による自伝「地面の底がぬけたんです」が収められている.

著者の知性と感性,ユーモアに彩られたエッセイは,どれも真に素晴らしいが,これらを読み進めるうちに,著者の壮絶な人生が徐々に明らかになってくる.

藤本氏は18歳でハンセン病に罹り,47歳で失明した.世間から隔離され,家族,光,手足の指を失った絶望の中で彼女が見つけた「光」が何だったのか,是非手にとって確かめていただきたいと思い,紹介させていただいた.

写真 Feb 02, 12 21 45 PM

 

タチアナ・ド・ロネ著「サラの鍵」

現在,学内の有志による書評ブログの準備が進められています.学内限定なので,そこに寄稿したものを再掲します.

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原研哉著「デザインのめざめ」読了

2016年元日に読みました.

簡潔でテンポの良い文章に,著者のデザインセンスが光ります.

人類がこれまで創造してきた道具を「こん棒」系と「うつわ」系に分類する著者の卓見に強い感銘を受けました.

森田真生氏による解説文もお勧めです.

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